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島びと見聞録

Iターン漁師
田中道雄(昭和50年生まれ)

「魚を釣るのも、飼うのも、料理するのも好き」―31歳の時に神津島にやってきたIターン漁師の田中さんは、大がつくほどの魚好き。しかし、島外からやってきた人が、自分の船を持って独立するのは大変なこと。神津島の風土や漁師たちは、移住者の視点からどう見えているのでしょうか。

仕事をしながら釣りができるなんて

物心ついた時から魚が好きで、親からは“保育園の頃、魚屋さんの前から動かなかった”と聞いています。小学校の帰りに毎日川に行って釣りをして、真っ暗になるまで帰りませんでした。生まれは横浜で海が近かったわけじゃないし、両親の仕事も魚には全然関係ないんですけどね。
本当は中学を出たらすぐ漁師になりたいと考えていたんですが、親から反対されて、調理師の専門学校へ行くことにしました。共働きの家庭だったので食事をよく自分で作って食べていて、料理も好きだったんです。それで、16歳から21歳まで熱海のホテルで調理師をやって、その後知人が独立してはじめた鍋料理屋を手伝うようになりました。
でも、ここが本当に忙しかった。本当に365日休みがない年もありました。週1回の釣りが楽しみで働いていたような人間だったので、釣りにいく時間がとれない生活が耐えられませんでした。25歳でその鍋料理屋辞めてからは、5年間程ガソリンスタンドで夜勤をして、昼間に釣りを楽しむ生活を送っていました。でも、「長くやる仕事じゃないな」と感じて、31歳の時初めて職安へ。昔からなりたいと思っていた漁師の求人を探しました。そしたら、神津島の遊漁船の求人を発見したんです。遊漁船なら自分もよく利用していたのでイメージがついたし、キンメ漁もやっていたので「これだったら仕事しながら釣りができる。これしかない」と。即決でした。

「漁師に明日はない」

神津島に来たのは2005年の4月。受け入れてくれた遊漁船は旅館も経営していたので、その日お客様に出す夕飯を釣ることも仕事のひとつでした。遊漁船に乗るお客様の接客をしながらだったので混んでいる時は大変でしたけど、自分の好きなことなので楽しかったですね。
4年勤めて、中古で船を買って独立しました。買うときは不安もありましたけど、「ここまで来たからにはやるしかない」と。周囲も「本当にやりたいんだったらやってみろ」と言ってくれました。
初めて漁に出たときの釣果は、小さなカツオが3~4匹。それが3日続いて、「まいったな、どうしよう」と思いましたね。当時は魚群探知機の画面を見ても正直どこに魚がいるかわからないし、かと言って自分で探すと途方もなく時間がかかる。困っていたら、遊漁船の親方が釣れるポイントを教えてくれて、釣れるようになりました。
先輩漁師さんから聞いたことで印象に残っているのは、「漁師に明日はない」という言葉。稼げるときに稼いでおかないと、明日でいいやと思っていたら魚がいなくなっちゃったということが実際ある。畑に植わっているものと違って、魚って生きて移動しているものだから。そこに魚が居ても餌を食べたくなければ食べないし。逆に、思いがけず釣れるかもしれない。行ってみないとわからないんです。サラリーマンみたいに保障されてるわけじゃない。毎日ギャンブルをしているようなものかもしれませんね。

周りの漁師に助けられて

島に来た当初、「神津島の漁師さんたちはあんまりよそ者を受け入れない」って聞いていたんです。実際、知らない番号の電話に出ない人も多いんですよ。宿をやってない限り島外の人と会う機会も少ないですしね。でも、来て間もない頃に飲み屋で「一緒にこっちで飲んで行けよ」と声をかけてもらって。本当は気さくなんだ、と驚きました。
時化の時はみんなで魚を持ち寄って、自分がさばいて家で宴会することも。「漁師は仲間を大事にして家庭を顧みない」って言われるんですが、ある意味そうかもしれません。船を陸にあげる作業は一人でできませんが、頼めばみんな来てくれます。逆に誰かが船をあげる時は、声をかけられなくてもみんな自然と集まって手伝います。本当に仲間を大事にするんですよ。
船を持った年の冬、あれもこれもと道具を買い足していったら、釣れない日が続いて、氷代や燃料代もかさんで赤字になってしまって。そうしたら、他の漁師さんたちが「困っているなら来てみたら」とポイントを教えてくれました。それがなかったら払えませんでしたね。結局みんな、周りの人たちのおかげなんです。


神津島に骨をうずめたい

神津島に来て、今年で6年。最初はコンビニがないなんて考えられなかったし、方言も聞き取れなかったけど、今は慣れました。たまに無性にファーストフードが食べたくなりますけど・・・本土に行くと必ず食べます(笑)
仕事は楽しいですよ。釣るのも楽しいし、釣った魚をどうやって調理しようか考えて、食べるのも楽しいです。漁師の特権ですね。 夢は・・・実現できるかどうかを気にせず言っていいなら、自分で一から船をつくることかな。でも、まずはちゃんと人並みに釣れてしっかり生活できるようになることが目標ですね。 人に恵まれてよくしていただいているから、もっともっと頑張らないと。 島の漁師さんたちから、「本土から来て、自分で船持ってやってるんだからだめになってほしくない」って応援してもらっているので。
神津島に骨をうずめるかって?そりゃもう、そのつもりです。


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